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私の心にそっと触れて(2021)

Touch My Heart Softly(2021)

 

 

再演(2023) 公式ホームページへ To Official Web site of Re-enactment(2023)  

 

INFORMATION

2023.09.10

再演の公式ホームページが公開されました。

Official Web Site of Re-enactment(2023) opened.

2023.01.02

文化庁の緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)に採択されました。

Adopted by EPAD of Agency for Cultural Affairs, Goverment of Japan.

2021.12.27

毎日新聞デジタル版に映像配信の記事が掲載されました。

Article on video distribution appeared in the Mainichi Newspaper digital edition.

2021.12.16

エンタメ特化型情報メディア スパイス SPICE に嶽本あゆ美と山下悟のインタビューが掲載されました。

An interview of Ayumi Dakemoto and Satoru Yamashita was featured in the entertainment-specific information media SPICE.

2021.10.22

「私の心にそっと触れて」の公演が無事終了しました。

The performande of "Touch My Heart Softly" has ended.

DETAIL

概要

Overview

「記憶を廻る、ある医師と妻たちの愛憎劇」

高齢化社会の難治の病であるアルツハイマー病。病気の進行により、記憶によって形作られる個人のライフヒストリーが不確かとなり、パーソナリティーも変貌する時、愛はどう記憶されるのだろうか? 魂と心の深淵をドラマによって探る。

"A love-hate drama around memories of a doctor and his family."

Alzheimer's disease is an intractable disease in an aging society. How is love remembered when an individual's life history becomes uncertain and personality changes? Explore the depths of the soul and heart through a drama.

公演情報

Performance Information

2021.12.16 ~ 2021.12.22

新宿スターフィールド

 

作:嶽本あゆ美

演出:山下悟(演劇集団円)

美術:乗峯雅寛

照明:古宮俊昭(SLS)

音響:齋藤美左男(TEO)

音楽協力:中村華子

衣装:樋口 藍

舞台監督:村信 保

演出助手:酒井麻緒

宣伝美術:ちば ゆうすけ

制作:高木由起子

主催:メメントC+山の羊舎

撮影:泉邦昭(株式会社アレイズ)

宣伝造形美術:井桁裕子・萩原美寛

制作協力:児玉ひろみ

出演:

外山誠二(UAM) 脳内神経医 清棲滋 

白石珠江(劇団民藝) 滋の妻 清棲知佳

佐々木研(劇団民藝) 整形外科医 丸山達夫

駒塚由衣 (J.CLIP)  患者のピアニスト 小林光子 

茜部真弓(オフィスPAC) 滋の娘 清棲理子 

石井英明(演劇集団円) 製薬会社のMR 鈴木聡 

山王弥須彦(テアトルRUIプロダクション) 訪問看護師 岩井浩一 

田村往子  滋の秘書 曽根村久恵

日沖和嘉子  ケアマネージャー 藤井陽子

簑手美沙絵(ミズキ事務所)  フィリピン人介護士 佐藤ジャニス・ミヨン

批評(パンフレット寄稿)

Review contributed in Pamphlet

パンフレット寄稿 「記憶と感情と演劇と」   佐川 佳南枝(さがわ かなえ)

 

 昨日、今日、明日、と連続した記憶を積み上げて生きていけることは、なんと幸せなことなのか。認知症の人の生きる世界を知った後では、強くそう思う。認知症になると少しずつ現実感が喪失していき、この世界に自分の存在している場所をみいだせなくなる。

 この舞台は一組の老夫婦を中心に演じられる。どのような夫婦の上にも、それぞれの年月が降り積もり、夫婦の物語が紡がれる。夫婦は毎日言葉を交わし、世界をふたりの会話の中で作り上げていく。しかしどちらかが認知症になり記憶がほころんでいくと、片方はもはや物語を一緒に紡いでいけなくなった事実に愕然とする。

 

「思い出になっていかないんだ。どこに行ったとしてもね。何をやってもね」。私が話を聞いた認知症の妻を介護する男性はそう嘆いた。またある人は、認知症発症当初は妻の変容を認められなかったものの、今は赤ちゃんのようになった妻に、昔とは違う「本当の夫婦の愛情」を感じていると語った。妻はすでに夫を夫と認識しておらず、「先生」と呼ぶ。「世話してくれる人、みんな先生じゃ」。子育ては妻任せだったが、今は幼児のようになった妻を育てているのだと笑う。夫は毎朝、鏡の前で妻の髪を梳く。

 

「うれしかったら泣きそうな顔するね。…髪といてやるとね、やっぱり思い出すんだろうな。昔のこととか、母親と子供との間のこと…」。

 

 記憶や言葉が失われ、他人からは容易に理解できない主体となっても、その相手の世界に意味を見いだし、理解しつづけようとする。それが愛というものだろうか。記憶が失われ、言葉が失われていったとしても、感情は残る。そして感情は一瞬のうちに伝わっていく。親密な暖かい感情も、高揚も、喜びも。包まれる手の感触によって、向けられるまなざし、声音によって。

 演劇では舞台から観客に、登場人物の様々な感情が一瞬に伝わっていくだろう。みなさんは誰に感情移入するのだろうか。認知症当事者の困惑や不安、介護者の悲しみや苛立ち。そういった錯綜する感情に共振した舞台の最後の場面で、なにか暖かな感情が舞台と客席とで共有されているであろうことに、認知症社会を生きていく希望をみいだしたいと願う。

 

<略歴>

佐川 佳南枝(さがわ かなえ)

京都橘大学健康科学部教授。作業療法士。

立教大学大学院社会学研究科博士課程後期課程修了。博士(社会学)。社会人経験の後、リハビリテーションを学び精神科の作業療法士に。社会学に興味を持ち、修士課程、博士課程と立教大学で学ぶ。認知症デイケアでのフィールドワークをもとに博士論文を執筆、それをもとに『記憶と感情のエスノグラフィー―認知症とコルサコフ症候群のフィールドワークから』(ハーベスト社、2017年)を上梓する。

熊本保健科学大学保健科学部リハビリテーション学科准教授を経て2018年より現職。

『記憶と感情のエスノグラフィー―認知症とコルサコフ症候群のフィールドワークから―』 佐川佳南枝 著   ハーベスト社

批評(観客)

Review by Spectators

岡町高弥

 

12月20日、メメントC+山の羊舎「私の心にそっと触れて〜愛は記憶されるのか?」(作•嶽本あゆ美、演出•山下悟)をシアター新宿スターフィールドで見る。 嶽本あゆ美は、「彼女たち」、「リアの食卓」と精力的に問題作を作り続けて、さらに年末にリアルで切実な作品を見せてくれた。 家族が認知症になって介護でとんでもないことが起きるというのは、今や当たり前の時代だ。 しかも、認知症の専門である脳神経内科医が認知症になったらどうなるのか。 記憶や感情、愛情はどうなっていくのか。 そして、家族は。身につまされる芝居だった。

68歳の脳神経内科で著名な教授だった清棲滋(外山誠二)は退官を迎えた日に足を骨折し、入院してしまう。ようやく退院を迎えたお祝いの日から始まる。 そのお祝いに長年連れ添ってきた妻の知佳(白石珠江)や、弁護士をしている娘の理子(茜部真弓)とその交際相手で製薬会社の鈴木(石井英明)、清棲夫妻の古い友人で整形外科医の丸山(佐々木研)が顔を揃えた。 滋の秘書だった曽根(田村往子)もいる。 多くの患者を診て最先端の治療をしてきたと自負する滋はなかなか退官を受け入れられない。 豪快に振る舞うが、どこかぎこちない。 そこに、有名なピアニストの小林(駒塚由衣)が現れる。 滋にピアニスト生命を助けてもらったというが、彼には彼女に関する記憶が全くなかった。 記憶の底では、ピアニストの小林はたびたび登場する。 滋のアルツハイマー病の症状は進展し、家族はなし崩し的に介護の世界に飲み込まれていく。私も母親が軽い認知症になっていったから多少はわかるが、介護には終わりが見えない。 認知症患者は記憶を集積することはできないが、喜怒哀楽は残る。 ケアマネの藤井(日沖和嘉子)、訪問看護師で医師で昔は滋の弟子だった岩井(山王弥須彦)、フィリピン人介護士ミヨン(簑手実沙絵)がやってきて、底なし沼のような介護生活が繰り広げられる。 医師で脳の専門家という自負が症状を悪化させる。

そのあたりの苦しみや葛藤を外山は鬼気迫る芝居で見せてくれる。さながらドキュメンタリーのような生々しさがある。介護するものの切なさ絶望感を白石が飄々とした芝居で見せる。絶望の果てに、愛の記憶が甦るところが感動的だ。

医療過誤や治験問題も絡んできてテーマは重層的だが、認知症の世界と介護の現場をエンタメとして見せるあたりは、脱帽した。 スターフィールド劇場は、小劇場の聖地、タイニイ・アリスの跡地と知って驚いた。 昔、ブリキの自発団や片桐はいりのデビュー作を見た記憶となかなか一致しない。 記憶とは曖昧なのだ。

批評(メディア)

Review by Media

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